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ナウエンの新刊のための表記調べ

 今度出る新刊ですが、たいへん難儀な作業を経ながら、やっと印刷の段階に漕ぎ着けました。

 ヘンリ・ナウエン著/ティモシー・ジョーンズ編
 『嘆きは踊りに変わる』--苦難のなかの希望(小渕春夫訳)

  
宗教界の用語はかくも複雑 
 このブログでは再三、キリスト教書に印刷された表記、とくに固有名詞について難癖をついてきました関係上、自らで手を抜くわけにはいきません(冷汗)。今回の初めて接した用語が二つありました。それはユダヤ教関係と東方正教会関係の用語です。
 私の周辺にはこの分野について詳しい方がいませんし、おつきあいもまったくないので困りました。それぞれ本文に、たった一回にしか出てこないのですが・・。なんとも出口が見つからないので、思い切って直接関係者に当たりました。

(1)神の呼び名 「Ribbono Shel Olom」
ナウエンの新刊のための表記調べ_e0079743_033972.jpg 最初はどうしてもローマ字読みしてしまいます。リッボノ・シェル・オローム・・こんな感じかなぁー。そこでインターネットで調べたら、英語ではずいぶんヒットしますね。ハイム・ポトクの小説からナウエンが引用した箇所に出てくるのですが、ポトクが育ったユダヤ教ハシド派の用語だろうかと検討をつけました。その後、日本ユダヤ教団というサイトにぶつかりましたので、逡巡したのち電話をかけました。

 私「ええー、私はキリスト教の・・」(出版社ですと言いたかった)
 相手(せっかちで、無愛想な早口でさえぎって)
  「ここは、キリスト教じゃないよ! ユダヤ教だよ!」
 私「(ええー・・それは分かってます・・汗)。
   あのー、ユダヤ教の用語を教えていただきたいと思いまして・・」
 
 ということで、この言葉を何とか電話口で発音しましたら。やはり早口で
 「それは電話では言えないよ。こちらに来てください!」

 うわー、神の名はみだりに唱えてはいけないということを厳格に守っているのかなぁ・・とあせり、緊張しました。「はい、明日、うかがいます!」
 ということで、翌日、雨の中、伺いましたよ。

 カメラの設置された厳重に守られた鉄格子の入口で、緊張してインターフォンを押しました。間もなく用心深そうにドアが開くと、受付のユダヤ人の若者が迎えてくれました。事情を説明しますと、その方が電話に出た方らしく、腰をおろしてから、親切に教えていただきました。(本当はラビにお会いできるかと期待していたのですが・・)

 意味は、The Owner of the World ということで、現代のイスラエル人なら誰でも知っている語だそうです。そして、窮地に陥ったとき、神に訴えるためによく使うのだそうです。英語ですと「オー・マイ・ゴッ」というものですね。英語のサイトで調べると、説明が The Master of the Univers と出てきて、何かユダヤ教の神秘主義の用語かと思いましたが、そうではなさそうですね。キリスト者は、旧約の用語で聖書に出てくる神の名は、「エル・シャダイ」「エル・ロイ」とかは親しんでいますが、この用語は知りませんでした。

 教えていただいた発音から決定訳は、

 「リボノ・シェル・オラム」

 一件落着! 感謝。

(2)東方正教会の用語 「Staretz Silouan」ナウエンの新刊のための表記調べ_e0079743_1651721.jpg これは、20世紀のギリシャ正教の僧侶と原文に説明してありました。ローマ字読みすると、「スタレッツ・シロウアン」(?)かなあー。これは思い切って日本ハリストス正教会に電話するしかありません。調べました。そうしたら何と当社の事務所がある、お茶の水の目の前にある東京復活大聖堂(ニコライ堂)にある本部でした。(近くにいても、まったくお付き合いないですからねー)
 その日、電話したときは、分かる人が不在ということで、問い合わせのファクスを送ることになりました。
 翌日、教会の司祭さんから電話をいただきました。そこで電話を通した音で確認することに。

 私「ええー、日本で通用している発音はどうなりますでしょうか?」
 司祭「そうですね。スターレッツ・シルワンです」
 私「え、え〜? もう一度、御願いします。あのー、みそ汁のシルに、お椀のワンですか?」と、ちょっと失礼かも知れないことを言ってしまいました。
 耳ですと間違えることがあるので、とっさに出てきた確認用の言葉なんです。

 何度か繰り返し、確かめました。どうも、耳はだめですね。書いてもらってファクスしてもらえばよかった。どうやらスターレッツとは尊称のことらしいです。「スターレッツは、日本語で何と言うのでしょう」と聞きましたが、どうやら「スタレツ」、あるいは「スターレッツ」で使うほかなさそうです。

 ようやく、これで解決しました。あとで、手元の大きな英和辞書で調べたら、「Staretz」が載っていましたよ。私は「Staretz Silouan」は、「名前・苗字」と思っていたのです。辞書の説明によると、どうやらロシア正教でも使うらしく、いわゆる「長老」とありました。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』で有名な、あの「ゾシマ長老」の長老ということらしいです。(私が間違っていたら教えてください)
 へー、なんか歴史を感じますね。日本では次の関連書が出ている模様です。

 聖山アトスの修道者著/ブジョストフスキー編訳『シルワンの手記』あかし書房(1982)

 ギリシャのバルカン半島にあるアトス山の聖者でした。「アトス山」は、世界遺産にも登録された、現代に奇跡的に残っている修道院群(女子禁制)です。

 こんなわけで、一回しか出てこない用語に、こんなにも手間どりました。
 でも、広いキリスト教界の歴史に少し触れることができ、よかったです。
by amen-do | 2006-12-04 17:03 | 本 作 り