人気ブログランキング | 話題のタグを見る

中村先生の翻訳教室に通っています(その1)

 中越地方でひどい地震がありましたね。昨日の午前、横浜で感じた揺れで相当大きいと判断しました。被災者への援助がスムースにいきますように。支援物資は企業から受けるが、個人からは受けないのだとか。以前の経験からそうするのだそうです。

中村先生の翻訳教室
 翻訳というものを正式(それがあるかどうか知らないが)に学んだことが、私にはありませんので、今年の五月から試しに講座を受けてみることにしました。短期間ですが。

中村先生の翻訳教室に通っています(その1)_e0079743_16493482.jpg 自由学園・明日館の主催による講座で、月二回、四ヶ月のコースです。講師は有名な翻訳家、著述家の中村妙子氏です。中村氏は、この場所以外では、翻訳を教えておられないとか。
 C.S.ルイス、アガサ・クリスティ、小説、キリスト教文学、どの訳本を読んでも、訳文は分かりやすく、イメージ豊かで、優れた訳者として知られています。ファンも多いことでしょう。

 場所は池袋駅から歩いて10分くらいのところにある有名な、F.L.ライトの設計(旧帝国ホテル)による明日館(みょうにちかん 重要文化財)です。かねてより訪問してみたいと思っていた歴史的な建物の中でのクラスです。

 週日の午前中であるためか、受講生に、さすが男性は少ないですが、今回のコースは、いつもより多い20数名の方が受講しています。毎回課題が出され、前もって訳を先生に郵送しておき、授業でも発表する実践中心のクラスです。

 そのクラスの中で、いままでの経験から生み出された警句や智恵を話していただくのが面白いのですが、その中のいくつかを紹介しましょう。
 以下は私が聞きとった範囲のもの。( )内は私見および注釈です。

●英文和訳と翻訳は異なる
 両者には大きな違いがある。翻訳は読者がいる。単に和訳するのでなく、読まれる文として訳す必要がある。

●一に原文、二に原文
 つい原文から離れ、思いこみで訳してしまうことがある。不明な点も含め、絶えず原文に戻ること。そこに必ずヒントがある。

●テンス(時制)はセンス
 過去形を現在形に、現在形を過去形に訳すことだってある。どちらがふさわしいか、その流れ、内容によって選んでよい。

●直訳か、意訳か
 どちらがいいということはない。できるだけ原文に沿いつつも、意訳(原文の意味を重視して訳す)することもあれば、直訳(単語に忠実に対応した訳語で訳す)がよい場合もある。

●せっかくの苦心も一語でだいなし
 何日、何時間もかけた翻訳も、一つの言葉の用法を間違うと、どんでもない誤訳になる。不明な点は、辞書、辞典、関連文献によくあたったり、その分野に詳しい人の意見を求めるとよい。
中村先生の翻訳教室に通っています(その1)_e0079743_16494823.jpg
●受動を能動に、能動を受動に
 英語特有の表現をそのまま和文にすると奇妙なことがある。ときに訳文の態を変えることもある。

●言葉にこもる価値判断
 1つの言葉には、否定的、肯定的、中立的、階層的、時代的……なニュアンスが含まれる。意味は同じでも、訳語の選択1つで、背後にある価値判断が加わるので注意を要する。

 以上、一部だけを紹介しました。これらは、いろいろと思い当たる点が多いです。こうして日頃感じていることを、ベテランの方から指摘していただくと、安心したり、展望が開けたりして助かります。

 今回、翻訳の課題は文芸作品を訳していますが、これが技術翻訳や哲学や神学的なものとなってくると、また注意点はそれぞれ異なってくるでしょう。

 ほんと、翻訳というのは多種多様であり、訳者の力量(英語、日本語、知識、経験、センス)に任せられることが多いですね。
 これから翻訳家を目指す方は、とにかく経験を積むこと、他者の目にさらされることが大事ではないかと思います。
by amen-do | 2007-07-17 16:48 | 本 作 り