ユダヤ人って誰のこと?

 私たちが「ユダヤ人」と言って思い浮かべる概念と、聖書で言っている「ユダヤ人」はまったく同じだろうか? しばらく前からちょっと興味をもち始めた。
 というのは、こんなドキッとする記事を前に読んだからだ。ほんとだろうか?

「ユダヤ人はどのようにして発明されたか」

 聖書の家系によれば、人類はノアの子孫から地球に広がった。ノアの子供たちは「セム、ハム、ヤペテ」。人類は皆、この子孫ということになる。(大洪水で他の人類は死滅したという前提)

セムの子孫への神の約束
 そして、アブラハム、イサク、ヤコブは、ノアの息子の一人、セムの子孫。そのアブラハムに対し、神は彼の子孫がカナンの地を受け継ぐという約束を与える。

 ヤコブ(イスラエル)から12人の息子が生まれ、その息子の一人、ユダがユダ族の祖。その家系がぐっと下って、ダビデ、ソロモンとなり、その子孫にイエス・キリストの父ヨセフがいる。ここでメシア(救世主)がユダ族の子孫から誕生するという預言が成就する。イエスの母マリアは、ユダ族の子孫でなく、ヤコブの子レビの子孫にあたる。

 だから、順当に行けば、現代のイスラエル国に住むユダヤ人は、セム系の子孫ユダ族ということになる。でも、リンク先のサンド氏の研究が正しければ、そうと言えないらしい。同氏は、「シオニズムは成立しない」と言っているらしいが、これはショッキングな指摘だ。

 紀元70年に、エルサレムが破壊され、国を失ったユダヤ人たちは世界に散った。およそ2000年がたつ中で、ヨーロッパでのユダヤ人迫害、ナチスによるホロコーストという想像を絶する苦難をへて、現在のイスラエル建国が実現する。

パレスチナ人の多くもアブラハムの子孫
 私の疑問は(メシアはユダ族から生まれるにしても)神が約束した「地を受け継ぐ人たち」は、現在の狭い意味でのユダヤ人だけでなく「アブラハムの子孫」であるはずでは、ということ。ならば、現在のパレスチナ人も含まれることにならないだろうか? 彼らの中に、イスラム教徒だけでなく、ユダヤ教徒やキリスト教徒もいるだろう。 かなりキリスト教徒がいることは聞いているし、サンド氏もそれを指摘している。

 ところで、セムは、現在の中近東やアジア人の祖と言われる。ハム系は、現在のアフリカ人と言われる。ヤペテはインド、ヨーロッパ語族の祖にして白人の祖。すると、現代、ユダヤ人に白人系の人が多く含まれるのはなぜ?

「ウィキペディア」によると、現在のユダヤ人には二つの大きな家系に分類されるようだ。東ヨーロッパに住み着いたアシュケナージ(アシュケナジム)とスファラディ(セファルディム)系ユダヤ人。後者は、オスマン・トルコ圏やスペイン・フランス・オランダ・イギリスなどに多い。

 それ以外にも中東地域、アジア地域、イラン、インド・中央アジア・グルジア・イエメン・モロッコ、中国、ジンバブエなどにもユダヤ人が移住している。ほかにも、まだ子孫が世界中にいるらしいから、何がなんだかわからなくなってきそう。

改宗した他民族が今のユダヤ人なのか?
 現在のユダヤ人のかなりの部分を占めるアシュケナージは、創世記10:3に出てくるアシュケナズが始祖だとすれば、彼らは「ヤペテ」の子孫ということになる。すると、アブラハムの子孫と言えるだろうか? ユダヤ教に改宗したヤペテ系の子孫ということにならないか。歴史上、東ヨーロッパの非ユダヤ人が大量にユダヤ教に改宗したという話も聞いたことがある。この点に詳しい方がいたら、教えを乞いたい。

 ということで、「ユダヤ人」と言うとき、現代はそれほど単純でない、多重な意味をもってしまう。いくつかの意味を並べてみる。

(1)現在のイスラエル国籍の人々(血筋でない。非信仰者や名だけのユダヤ教徒も含む)
(2)世界に散らされる前の聖書に登場する歴史上の人々
(3)ヨーロッパで迫害を受けてきた人々(民族。中世以前の概念)
(4)血筋によるユダヤ教徒(今日まで異教徒、他民族と混血してない人々)
(5)ユダヤ教を信じる人々。(アジア人もアフリカ人も含む)

 私たちはたぶん、以上の意味を、そのとき、その場で使い分けて使っているように思う。現在のユダヤ人は、歴史的にも血筋でも複雑にして多様。ナチスの迫害を受けた当時でさえ、すでに他民族と結婚、混血していたのだから。

 日本人で聖書を読んでいる人は、二千年の歴史をすっとばして(2)-(4)を一緒にして現在のイスラエル国籍のユダヤ人がそうだと、素朴に考えているのではないか? 私なんか、へたするとずっとそう考えてきたかもしれない。

 では、ここで神学的な考察だが、現実の多様性、複雑性を認めるなら、2000年前の聖書の世界を、現代の地理的、民族的領域に当てはめて適用することに実質的な意味はあるのだろうか?

合理的な結論では
 以上を考察し、最大公約数として考えると、現在においては、国籍や血筋でなく、「ユダヤ教を信じている人たちが『ユダヤ人』」という理解が、いちばん合理的的に思える。つまり、(5)だ。(ユダヤ教徒といっても、超民族主義の人から名だけの人までと幅広い。信徒であっても、超保守派、保守派、改革派、穏健派といる)。だから、イスラエル国籍の人は、「イスラエル人」と呼ぶほうが正確ではないか?
 つまり結論は、現代では「ユダヤ教を信じていれば、日本人もユダヤ人」ということになる。変かな〜。

 そして、私たちでさえ、西洋の絵画、映画で植え付けられた「イエス・キリストを含めた聖書の登場人物は白人」という強烈な印象は、もしかしたら間違っているかもしれない。
 たぶん聖書に登場するイスラエル民族、ユダヤ人は、もっと日本人に近いかもしれない有色人種、中東人、アジア人ではないだろうか。(きっと先人の研究に、こうした指摘はあるはず。ユダヤ人は鼻が大きいとかの現代人の抱くイメージもじつは偏見で、旧約、新約時代のユダヤ人の外貌はそれと異なっていたかもしれない)

 もしそうだだとすれば、「聖書の世界は西洋の宗教」という日本人の「思い込み」は、大きく変換されるべきではないだろうか。
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